人は、現実としてありえない事を想像出来ない。

よく小説や映画にて我々の現実世界ではありえない出来事が描かれている。たとえば宇宙人であるとか。それならば、現実としてありえない事も我々は想像出来るじゃないか、と思うのだが、実のところそうではない。宇宙人もお化けも、実は最初に作った人がいる。つまり「想像」の前例がある、ということだ。それは才能のある作家なのか、妄言を重ねた狂人なのかは分からないけど、過去、その後の我々の脳内に強く印象付けうる「前例」を作り上げた人間がいるのである。それが時を経て、形になり、私達の脳に刻みこまれ、ついにはたとえ現実に存在しない物であろうとそれは想像出来うる対象と成るのである。分かりやすく言えば、「宇宙人」というキーワードに対し、僕らはあの、俗にグレーと言われる、のっぺりとした瞳の大きい白い奴を想像する。そんな奴誰も見たことないにも関わらず、だ。

先日、ありえないものを見た。僕はその出来事を友人に話す。だが、友人は僕が思っていたような反応をしてくれない。僕が"それ"を見たときの衝撃の十分の1も伝わらない。

想像できないからだ。

おそらく多くの人が一回もその光景を見ずに人生を終える。過去、小説でも映画でも、その光景を描写したという前例は、おそらくない。

僕は悔しい。僕の言語能力が足りないばかりに、その景色はこのまま歴史の闇に埋没してしまう。それは分かっている。だが、このまま手をこまねいているわけにもいかない。たとえそれが10分の1も伝わらないとしても、僕はここに記してみようと思う。







あれは晴れたとある休日のこと。僕は友人数人とドライブに出かけた。目的地は特になかったが、とりあえず、都会を離れ海の幸でも食べられるところに、という話になった。

高速に乗ると、ほどなくして渋滞に巻き込まれる。まったく車が動かない。せっかく都会を離れてゆっくりしようと思ったのに、これじゃあ逆に疲れに行くようなもんだ。やはり休日のドライブなどするもんじゃない、家で寝ていればよかった。僕は次第にそんな憂鬱な気分になっていった。

その時だった。

ふと、車内から外を眺めた。横には僕らと同じく渋滞で動けずにいる車があった。そしてその車内に―

「…!」

僕はその光景を一度では飲み込むことが出来ず、一端正面を見直した。

「落ち着け、落ち着け、落ち着け。」

気持ちを落ち着かせ、もう一度横の車の中に目をやる。

「これは現実だ―」

夢でもなんでもなかった。僕の眼前に広がる光景はまぎれもない現実であった。

まぎれもなく、その車のおっさんは、恍惚の表情で、その太い、そして長いブツを口に咥え、体を上下させていた。そして、その車の中におっさん以外の人間はいない。つまり彼は車内に一人。貴方にはこの意味が分かるだろうか。

そんなことあるわけがない。ここは日本、法治国家の公道だ。なぜ高速道路でそんな行為に及ぶんだ。なにがお前をそうさせたんだ。車が動き出したらどうするんだ。そして、なんでそんなに気持ち良さそうなんだ。

様々な言葉と感情が僕の中で交差する。すぐに僕らの車線は動き出し、隣の車は後方へと遠ざかっていく。あれは本当に現実だったのか、それともこの世界とは“異”なる事象を僕は覗き見してしまったのか。いや、でもそれは確かに在った。僕は確かに見た。

渋滞の暇つぶしにノリノリで縦笛を吹いていたおじさんを。





かつて、ある一人の天才作家がいた。名前はジュール・ヴェルヌ。数多くのSF作品を世に出し、始めは彼の頭の中だけにあったはずそれらの事柄は、彼の才能と、その後の歴史の積み重ねにより、もはや現実と言っても過言でない世界へと昇華した。近い将来、我々人類は本当に、遥か深い海底や地底の世界を旅することなるだろう。その時、想像は現実となる。

彼は次のような言葉を残している。

「人が想像できることは必ず人が実現できる。」

と。

彼が死に、おおよそ100年が経った今。僕が彼の言葉に新たな歴史を刻むとしよう。



「人が想像できることは必ず人が実現できる。だが、本当に実現するかどうかは別だ。」



そりゃあ、アンタは三度の飯より縦笛が好きなのかもしれない。渋滞の暇つぶしに吹こうと想像したのかもしれない。誰にも迷惑かけないから実現は容易いのかもしれない。でも本当にやっちゃダメだ。見た人がびっくりする。そんなに好きなら、ずっと家で吹いてて下さい。わざわざ出かけないで。


でも…、

でもその情熱は…天晴れだ…!!



【追記】

縦笛ってなんかちょっとマヌケだよね。ラッパとかってカッコイイのに、なんであの縦笛・リコーダーってやつはマヌケに見えてしまうんだろう。学生の時に無理矢理やらされてさ。基本、「好きな女子の縦笛を盗む」って以外であやつが話題に上ることってないような気がするなぁ。






見たかった!!
その光景はぜひ見たかった!!
そして大声で笑いたかった!!

三代目さんの文章だけでも存分に笑わせていただきました。
【2008/06/15 19:50】 URL | 綴夜 #XMatgrFs[ 編集]
横笛だったら 少しはマシなのかな?
【2008/06/15 21:28】 URL | 恵以子 #Fm81lUyk[ 編集]
そもそも何で縦笛なんて持ち込んでんの、オッサン。
どんだけ縦笛好きなの、オッサン。

『縦笛』って書くと余計にマヌケそうですよね。
『リコーダー』なら若干オサレな感じが…
そうでもないか。
【2008/06/23 09:29】 URL | アル #-[ 編集]
> 綴夜さん

ううむ、あれから2ヶ月…実は自分は夢でも見ていたんじゃないかという気になりました。

ってか2ヶ月後に返信って!すんません!!
【2008/08/15 22:14】 URL | 三代目 #-[ 編集]
> 恵以子さん

マシだったと思います。だってほら、絶対縦の方がマヌケですもん。
【2008/08/15 22:15】 URL | 三代目 #-[ 編集]
> アル さん

久しぶりにコメントいただいたのに返信遅くなってごめんなさい。笛の話は…もういいっすね…。いやぁ、ごめんなさい…。
【2008/08/15 22:17】 URL | 三代目 #-[ 編集]














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