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五月人形と鯉のぼりはずいぶん前から僕の気持ちを高ぶらせていて、口いっぱいに広がる柏餅の甘さは今日が特別な日であることを知らせてくれた。
そう、今日は子供の日。僕らの日だ。そう思うと、なんだか僕は、自分が一人前になったような、とても誇らしい気持ちになれた。
天気は最高。今日はお父さんとお母さんと一緒に公園で遊んで、冷たくて甘いアイスクリームを食べて。その後は家の柱で背を測る。そしたらお母さんが「また大きくなったね」って褒めてくれる。
はずだった。
「あ〜〜そ〜〜〜ぼ〜〜〜〜!!」その声の主は小林くんだった。小林くんとは幼馴染で、ちっちゃい頃からいつも一緒に遊んでいた。本当は、今日は両親と一緒に過ごす気でいたのだが、「ごめん、今日はお父さんとお母さんと…」とは、なんだか恥ずかしくて言えなかった。というのは、その頃、親とベタベタするのは少し恥ずかしいことだと感じるようになっていて。少なくとも、友達にそんな素振りは見られたくない、と思うようになっていたからだ。特に小林くんには、ちょっと前にも「え〜、まだお母さんとお風呂入ってるの〜?」と馬鹿にされたばかりであったし。
だから僕は小林くんの誘いを断れなかった。そして近くの水上公園に行くことになった。正直、この行き先にも僕は気が進まなかった。なぜならこの水上公園、人工の浅い水たまりの上にアスレチックがあったり、小船に乗ることが出来るようになっているのだが、遊んでいるのはほとんどが4年生以上の上級生で、小学校二年生にとっては、ある意味で大冒険とも言えるもので、親からは「子供だけでは危ないから行くな」と口を酸っぱくして言われている場所であったからだ。
でも僕は、この時初めて、子供だけで水上公園へ行くことにした。ここでまた、「お母さんが…」というのは恥ずかしかったし、なにより「勇気がない」と思われるのがすごく嫌だったからだ。
そして事件が起った。
「ね!あの船乗ろうよ!!」小林くんのその誘いが発端であった。この誘いに乗ったのが過ちだった。公園に来る前は気が進まなかった僕も、恐る恐るアスレチックを飛び跳ねている内、自分が一回り大きくなったような気がしてしまっていたのだ。
船はタライのような形をしており、子供が1人か2人が乗れるくらいのものであった。僕と小林くんは背中を付き合わせて船に乗り、それぞれ右と左のオールを手にし、漕ぎ進めた。
そしてもちろん落ちた。
パンツまでびしょ濡れになった。僕はびしょ濡れになったことよりも、「行ってはいけない」と言われた水上公園に行ったことが、親にバレることの方を心配した。なんとか服を乾かそうと、5時の帰宅のチャイムが鳴るまで家に帰らずに粘った。だが乾くわけもない。自転車を漕ぎながら見た恐ろしいくらい奇麗な夕焼けは、15年経った今でも鮮やかに脳裏に焼きついている。
が、事件は予想外の展開を見せた。
僕も軽く親に怒られたものの、大騒ぎしたのは何と小林くんの親の方であった。大人ぶっていた小林くんの方がよほど過保護に育てられていたようで、「あなたの息子は、うちの息子をなんて危険な所へ連れ出したのか」とやって来たから、さあ大変。あらぬ濡れ衣に僕の親もヒートアップ。「これは親も含め皆が悪いのであって、うちだけに責任を問われるのはおかしい」と口論に…。
楽しいはずだった子供の日が一転して修羅場になってしまった。僕は、そんな親たちを尻目に、複雑な気分でサザエさんを見つつ、ひとつだけ心の中で決心をした。
「小林とはもう二度と遊ばない。絶交だ。」と。
…
…
昨日、そんな話を酒を飲みつつ交わした。
「でも…親の気持ちも分かるよ…。」
一足先に親になった彼は少し照れ、そして少しすまなそうな顔でこう言った。子は親に似る、というが、こいつもまた過保護に育てるのだろな。まあ、僕に子供が出来たら、また喧嘩しようか。
おめでとう。
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