話は出発当日、その朝に戻る。
昨日は夜遅くまでのバイトであった。携帯の、アラーム。かのスタンハンセンの入場テーマ曲「サンライズ」が響く中、時間ギリギリまで布団を出ようとしない僕。
ギリギリでいつも生きていたいから―自分の男っぷりが怖い。
…
「やべ、寝坊した―。」
「寝坊」、という字を辞書で引いてみた。「分からないことは辞書で引きましょう」…そう、松原先生がよく言っていたからだ。
朝おそくまで寝ていること。また、そのさまや、その癖のある人。「―して待ち合わせに遅れる」「寝坊」、をすると、「遅れる」らしい。
僕は、「遅れる」と思った。飛行機、ひこうき、ヒコウキ…。
ぶーーん
…
…
「やっべ!! 遅れる!!!!!」
ようやく、状況を理解できた僕は、全力で出支度をする。ザクの三倍はあるであろうスピードだ。
ふと、
先日、とある終電前の駅のトイレにて、耳に入ってきた会話を思い出す。水木しげる翁の漫画に出てきそうな、ウダツのまったく上がらない感じのサラリーマーンふたりの会話だ。
「おれさー、もう、早くて早くてダメなんだよー。彼女も不満顔さー」
「ははは、
音速の亀頭子
とは、君のことだね!」
音速の亀頭子―
ならば、僕は高速の亀頭子になろう。待っていろ羽田。
所要時間10分。
夜の方は本当に、音速のそれである僕のそれからしたら、それは決して早くはない、いや、むしろ「よく頑張った。」とも言える偉業なのであるが、今は決して夜のそれではなく、
寝起き、ということを考えば、「十分に早い」と云えるスピードであった。
「いざ!」
ipodの再生ボタンを押し、靴紐をビシッと結ぶ。
…
…
が、ちょっとした違和感。
しばし考える。
―そうか、このipodというものを手に入れてから、旅に出るのははじめてなんだ。
MDウォークマンに、「カチャ」とMDを入れる感じが、それが「旅の合図」のような感じがして、好きだったんだな―
と、この時はじめて気がついた。
さあ、
少しの寂しさと、大きな期待を胸に旅がはじまる。
僕は、
勢いよく家を飛び出すと、遥か北への旅路の一歩を踏み出した―
クチャ…!…
…
が、ちょっとした違和感。
しばし考える。
「カチャ」、ならぬ「クチャ」。
僕は、それを辞書で引いてみた。「分からないことは辞書で引きましょう」…そう、松原先生はよく言っていたからだ。アイツのことは大嫌いだった。
動物が、消化器で消化したあと、肛門から排出する食物のかす。大便。ふん。…
うんこ踏んだ。人生で、初かもしれない。犬のうんこを踏んだ。北海道の牧場で、ではない。東京の自宅前で、でだ。飛行機に乗り遅れそうなクソ忙しい朝、にだ。「クソ」だけに「クソ忙しい」とか、「クソ」だけに「くっそー!」と悔しがったかどうかなんて誰も知りえない、のだ。
つづく
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これが実話だってんだから、人生ってのはやめらないです。
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