ここに一冊のノートがある。
その表紙にはやけにか弱い文字で、こう記されている。
「就活ノート」
さて、そろそろ話そうか。
「2ダブリ大学生・ギリギリ就活奮闘記」第一話 「そうだ、就活をしよう。」――話は2005年の10月5日に戻る。
男はいつも通りの朝を迎えていた。テレビをつけるといつも通りにグラサンの司会者が何かを話している。この数年間、男にとっての「朝」とは、まさにその光景に他ならなかった。
頭が痛い。昨日は飲みすぎた。「自分よりモテない」と信じて疑わなかった友人にかわいい彼女が出来たのだ。大いなる敗北感ゆえか、明らかに悪い酒の飲み方だった。
左手も痛い。これは、ご祝儀代わりとスタンハンセン直伝のウェスタンラリアットを見舞ったせいであろう。
とにかく遊び相手がひとり減ったことは確かだった。
「さて、今日は何をしようか…。」
いつもなら奴に連絡するところだが…。今はもう…そう、奴には大塚愛似の相方がいるのだ。
「もういっかい!!」、きっと奴らは夜な夜なそんな掛け声を掛け合っているのだろう。干からびてしまえばいい。
しかたなく男は、黒く細長い機械の箱に手をかける。野球ゲームのペナントモードがもう少しで終るのだ。
ゲームを終らせることに意味はない。1年のペナントが終ったら、また次の1年のペナントが始まるだけだからだ。
終わりなき漫然とした作業の繰り返し。それはまさに男の日常を鏡に写したかのようだった。
4番打者の打率7割。ちょうど男の大学欠席率くらいだったろうか。
さすがにそれはないか…少し考えたが、すぐにやめた。そんなことは大した問題ではないのだ。
―その時、
ふと、昨日の飲み会での会話が断片的に男の脳裏をよぎった。
「おっぱい! おっぱい!」
違う。それではない。
「もう、就活だよなー。お前、何かやってる? 俺は夏にインターン行ってきたぜ。」
そう、それだ。
インターン? 何だそれ、うまいのか?
夏? 夏か…東北あたりを放浪していたな。あとはパワプロ。
しゅうかつ、か…。
男は、昨晩買っておいて飲み切れなかったペットボトルのお茶を飲み干すと、小さくこう呟いた。
「そうだ、就活をしよう。」
痛みの残った左手をくるくると回すと、男はすぐさま家を出た。
行く先は文房具屋だった。
いつからだろうか、
男が生活をする上で、ノートやペンはまるで無用な存在と化していたのだ。
「就活ノート」
何ヶ月かぶりにペンを握った男の指は小刻みに震えていた。
男の名は「三代目」としようか。当時23歳。
2ダブリ大学生のギリギリな就職活動がその時より始まった。
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新シリーズです。いつ終るやら…。