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ハードボイルド・ワンダーランド
私は2杯目のビールを胃の中へと流し込むと、先程の雨でよれよれになってしまったセブンスターに火をつけた。耳元で流れるディランの音楽は次第に遠くなり、読みかけの『カラマーゾフの兄弟』を枕元にそっと置く。徐々に、私の脳の中で意識と無意識が交差をし出す。「貴方が無くしたものは私が無くしたものでもあるの。貴方はをそれを自分のもとへと戻したいと思うのでしょうけど、全てのものは“あるべき場所”が存在して、それは貴方が無くしたものなのだけれど、一方では“あるべき場所”に戻ったとも言えるの。」彼女の言葉がリフレインする。“あるべき場所”、というものがそこにあるとすれば―私は、今はもう空になってしまったその箱を手に取り、思索の海に身を漂わす。ディランが『メンフィス・ブルース・アゲイン」』を唄い終った頃、昨日も、そして1年前もそうであったように―もはやそれがそこにあることが私の日常であったかのように、静かに、そして確かに、電話が鳴り出した。「やれやれ。」、私は電話を切り、手元にあるメモ紙に目を通した。どうやらその時が来たようだ。一瞬だけ彼女のことが頭に浮かんだが、そこで私の思考はぷつりと途切れた。ボブ・ディランは『激しい雨』を唄いつづけていた。
世界の終わり
灰色、緑、そして桃色、めまぐるしく変わる景色の中、僕は目を覚ました。さっき、といっても僕がどれくらい眠ってしまっていたかは分からなく、本当はずっと昔の事なのかもしれないのだけれど、さっきまで元気良く周りを走り回っていた一角獣たちは、一斉に、あたかも生きる欲望すらも失ってしまったのごとく、息をひそめ、ただその時が来るのを待ち構えていた。そう、一角獣たちは誰かが息絶えるのをずっと待っているのだ。僕の仕事はこの図書館で、僕の思うままに今日も明日も、僕の“あるべき場所”を探すことなのだと老人は言っていた。その言葉を思い出すたび、僕の頭はひどく混乱をする。頭蓋骨はきいきいと嫌な音を鳴らす。そんな時、僕はいつも彼女のことを思い出し彼女を探すのだけれども、いつも寸前の所で彼女は僕のもとから離れていってしまう。「ああ、やっと逢えたね。」、僕の影が僕に話しかけてきた。僕が黙っていると、影は話し続けた。「そこにある世界が僕達にとって正しい世界なのかは分からない。しかし少なくとも僕たちが生きる世界ではあるんだ。分かるだろ、君と僕はいっしょ。僕は君に着いて行くよ。」、僕は肯いて立ち上がり、ポケットの中の古ぼけたメモ紙をくしゃくしゃに丸めた。
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